配偶者居住権①
令和2年は、法律界にとって実は大忙しです。先般このブログにアップした、犯収法施行規則や不登法規則等の一部改正だけでなく、民法の債権法が大幅に改正され、その施行日のほとんどが今年だからです。
民法改正の話でいくと、昨年からは相続法も手が加えられています。その原則的な施行日は昨年7月1日だったのですが、タイトルに掲げた「配偶者居住権」という新たな制度は、今年の4月1日施行とされています。その理由は、配偶者居住権はこれまでにない新しい権利であり、その周知に相当の期間が必要だと考えられたからです。
そして、この配偶者居住権は今般の相続法改正の目玉ともいわれる改正です。
以下では、この制度の概要について記載したいと思います。
まず、この制度が創設された趣旨は、端的に言うと、夫婦の一方が亡くなった後の残された配偶者に居住権を確保するためです。
すなわち、夫が亡くなり妻と子が相続人である場合を例として、旧法によると、遺産分割で妻が元々住んでいた家を相続することにしていたところ、この方法では、建物が高額の場合に、他の遺産(お金など)は子に持っていかれてしまうことになりかねず、家はあるけど生活資金がない状態が生じ得ました。
また、旧法では、遺産分割で子が家を相続し、妻が子と賃貸借契約等を締結するなどして生活することも考えられましたが、これだと子が賃貸借契約等に応ずることが前提となり、そうでなければ、妻の居住権が確保されないことになります。それに、賃貸借契約をするにしても、夫が亡くなる前はタダで住んでいたのに、相続を契機に子の所有になったからといって、子に賃料を支払わないといけないというのはなんだか納得いきません。
そこで、家を相続する場合よりも低廉でしかも無償の居住権として配偶者居住権を創設することで、住み慣れた居住環境での生活を継続するための居住権の確保とその後の生活資金として預貯金等の財産を一定程度確保できるようにしました。
では、配偶者居住権はどのような場合に発生するのでしょうか。
配偶者居住権の成立要件は、
①配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していたこと
②その建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈、死因贈与がされたこと
です(民法第1028条第1項、第554条)。
赤字で示した以外にも注意すべき箇所はありますが、概ね大事なところは赤字の箇所です。
次に、配偶者居住権とはどのような権利なのでしょうか。
配偶者居住権は、配偶者の居住権確保のために特に認められた権利なので、帰属上の一身専属権です。なので、配偶者が他に譲渡することはできず(民法第1032条第2項)、配偶者が死亡した場合には当然消滅します(相続の対象にはなりません。民法第1036条が準用する第597条第3項)。
配偶者は、無償で居住建物の使用及び収益することができ(民法第1028条第1項本文)、所有者の承諾を得れば、建物の増改築や第三者に使用及び収益をさせることもできます(民法第1032条第3項)。
最後に、配偶者居住権はどのような場合に消滅するのでしょうか。
配偶者居住権の消滅原因としては、①存続期間の満了(民法第1036条が準用する第597条第1項)、②居住建物の所有者による消滅請求(民法第1032条第4項)、③配偶者の死亡(民法第1036条が準用する第597条第3項)、④居住建物の全部滅失等(民法第1036条が準用する第616条の2)、⑤当事者の合意による消滅(明文無し)等です。
以上が、ざっくりとした配偶者居住権の概要ですが、配偶者居住権は登記をすることができます(民法第1031条)。また、居住建物の所有者は、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います(同第1項)。
次回は、登記手続きについて記載したいと思います。
つづく
参考文献:「一問一答 新しい相続法-平成30年民法等(相続法)改正、遺言書保管法の解説」(堂園幹一郎・野口宣大編著 商事法務)
「Q&Aでマスターする相続法改正と司法書士実務 重要条文ポイント解説162問」(東京司法書士会民法改正対策委員会編 日本加除出版)